Silk Cocoon

未来に在る思い出を探して綴るアイカツおじさんの日記

前日譚―スターズ編マイキャラ〈小説〉

 

 

 

「足元、気を付けてね、ヒスイ」

 ルリコが下を向いて言う。頷いて、また一歩上にあがる。

 はしごを登りきると、少し広めの足場に出る。ドリームアカデミーの校舎で一番高い場所だ。手すりに近寄って遠くを見つめると、海の向こうに水平線が見えた。朝方の空はまだ薄暗く、空気は少し肌寒かった。羽織ってきたカーディガンでは薄着だったかもしれない。そんな私のとなりで、ルリコは部屋着の半袖シャツ姿のまま海を見ていた。

「トウカ、すごい決心をしたよね」

 ルリコが口を開く。思った通りの話だった。数日前にトウカから突然聞かされた、かなり衝撃的な話。

「四ツ星学園への編入……。まぁ自分で決断したのは良いことだと思うけれど、あたしとスゥになんの相談も無しに決めちゃって。……やっぱり、少しさみしいね」

 顔を向けたルリコが、無理やり作った笑顔でそう言った。手すりに寄りかかったルリコはアイカツフォンを取り出すと、立体ディスプレイに一枚の写真を映し出した。トウカとルリコと私の三人が笑っている。

 

 初めてトウカとルリコに出会った日を、いまでも憶えている。

 

 

 

「すっごいかわいい! ねぇ名前は? 私、彩藤橙歌! こっちは友達のルリコ!」

「トウカ、突然だし相手の子を驚かせすぎ。ごめんね、あたしは神林瑠璃子。デザイナーコースよ」

 突然、かわいいと言ってきたトウカと、それを見て呆れていたルリコ。

 私がプロデューサー志望だと知ると、トウカはすぐにプロデュースを頼んできた。驚きつつも自分も少し気になっている様子のルリコ。

「栢森灯翠ちゃん? ヒスイ、名前もかわいいね。でねぇ、ヒスイちゃん。私たち、ちょうどプロデューサーになってくれる子を探そうと思ってたところなの」

「まぁたトウカは勢いばっかりで……。いきなりでごめん。でもその、プロデューサーを探すつもりだったのは本当なんだ」

 

 成り行きというか、なんとなくというか。そんな都合で組んだチームだったけれど、そのあとどんなチームを組んでも、トウカとルリコのチームが忘れられなかった。あれが最高のバランスだった。

 私はこの子たちのプロデューサーになるって、二回目に組んだときに決めた。そしてそれは、今しっかり実現できていた。

 

「本当にヒスイってすごい。すごい。凄くすごい!」

「言葉になってないよトウカ。……でも、ふふっ……あっはは! 何、凄くすごいって、ははっ」 

 ことある事に絶賛してくる明るいトウカ。冷静だけど、みんなで居ると弾けた笑顔を見せるルリコ。

 

「え、ヒスイって絢芽姉ちゃんのファンなの? へぇー、お姉ちゃんに言っておくから、今度会いに行こうよ。絢芽姉ちゃん、好きですって言われるとすごく喜ぶんだよ」

「スゥも絢芽さんのファンなんだね。あたしも憧れてるんだ。……ねぇトウカ、絹保さんとも会えたりする?」

 私が憧れるアイドルの実の妹だったトウカ。その話で意気投合したルリコ。

 

「違うのね。これはね、えーとその、そう。今度グルメリポーターのお仕事に応募しようと思っていて、その練習でね」

「トウカ。あたしが言いたいこと判るよね。ね? ほら、スゥも言ってやってよ」

 おかしが大好きで、食べ過ぎては私とルリコに叱られたトウカ。でも実はたまにはそれを許しちゃう、トウカにあまいルリコ。

 

「ルリコの新しいドレス、やっぱり今回もすごく良いよね〜。私、ルリコが作るドレス大好きなんだぁ」

「もうすぐで完成だからさ……。ごめんね、遅れて。……もう少し、待っててよ」

 ルリコが作るドレスが大好きなトウカ。トウカと私の期待に応えようと、頑張りすぎて体調を崩しちゃったこともあるルリコ。

 

「ルリコが作るドレスは、全部大好き。でもさ、私がルリコよりもドレスを大切にするわけないじゃん! ドレスが完成しても、ルリコが倒れたらダメに決まってるでしょ! 私の気持ち判ってよ!」

「……ごめんね、トウカ。あたしが、ま……、間違ってた……。スゥも、ごめん。心配か、かけちゃったよね。本当に、ごめん……っ」

 ルリコが倒れて、初めて本気で怒ったトウカ。そんなトウカと私に対して、本心から謝って涙をこぼしたルリコ。

 

「あたしはトウカとスゥと、三人でアイカツが出来てとっても幸せ。ちょっと失敗しても、まぁ確かに悔しいけど、もっと三人で頑張れるんだって思えるよ。だから、さ。泣かないでよ、トウカ。あたしたちのリーダーが泣いちゃっ、たら。あたしも……、かなしく、なっちゃう……からっ」

 三人で出場したオーディションで失敗して、部屋で泣いていたトウカ。ルリコと私でトウカをいっぱい慰めた。そのとき、結局三人で泣いちゃったよね。

 

 人一倍努力家で、早くお姉ちゃんに追い付いてみせるんだって、いつもそう言っていたトウカ。

「私さ。ドリアカに来たとき、自分よりも先にアイドルになったお姉ちゃんたちに早く追い付きたいって、そう思ってた。お姉ちゃんたちにはもう、すごく人気があって、二人とも遠くへ行っちゃったような、私が置いて行かれてるような気がしてたからさ。だから早く一人前のアイドルになって、お姉ちゃんのとなりに立ちたかった。いまはその夢も叶って、絹保姉ちゃん、絢芽姉ちゃんと一緒にユニットを組むことまで出来た。私がここまで来られたのは、やっぱりルリコとヒスイが居てくれたからだよねって、一緒にアイカツをしてくれる仲間が居るからいまの私になれたんじゃないかって、そう思えるようになったんだ。まだまだ一人前とは呼べなくても、私はアイドルとして成長出来たんじゃないかなって、そんな気がするんだ。なーんて、自分で言うのもなんだかヘンかなっ」

 自分自身の成長を自覚出来るくらい変わったんだよね。すっきりした顔を見せてくれたトウカ。

 

 ドレス作りに今までで一番行き詰まってしまったルリコ。

「あたしが作ったものが全部正解なら、苦労はしない。トウカはそう答えてくれるけど、あたしが納得出来ない。すごく葛藤だよ、これって。ずっとそう思ってた。でも、あたしのことを悩ませていたのもトウカだったけれど、あたしを開放してくれたのもトウカだったんだって、今なら判る。ただドレスを作るだけじゃダメだった。誰に着てもらいたいかを考えて作るから、作品って魅力を増すんだよね。『ドレスは人が纏ってこそ完成する』って、身を持って実感したよ。あたしもデザイナーとして、まだまだ勉強出来そう。トウカとスゥに似合うドレス、もっといっぱい作りたいな!」

 トウカの存在が、ドレスの完成を導いた。誰よりも、トウカのことが大好きで、トウカのためにドレスを作ることが大好きなルリコ。私にもドレス作ってくれて、いつもすっごく嬉しいよ。

 

 

 

 「本当、いろいろあったよね」

 私と同じように、ルリコも思い出を振り返っていたのか、私が言おうとした言葉をそのまま口にした。

 思えばドリアカに入学してから今日まで、いつも二人が一緒だった。トウカもルリコも私の大切な、家族みたいな存在。寮暮らしだったから、余計にそう感じさせたのかもしれない。

「あたしがさ」

 ルリコはアイカツフォンをポケットにしまうと、白み始めた水平線を見つめながら話し始めた。

「あたしがドリアカに入ったのは、そらさんに憧れたからだった。そらさんはデザイナーとしてもすごいけど、仲間と、音城先輩たちと一緒にステージに立つ姿はもっと魅力的だった。いつの間にか、デザイナーとしてのそらさんだけじゃなくて、アイドルとしてのそらさんにも憧れてたんだ。トウカとヒスイと一緒に居るうちに、あたしはデザイナーになりたい気持ちと同じくらい、二人との繋がりを大切にしたいって思うようになってた。お姉ちゃんに負けないって気持ちで進むトウカも、いつもいろんなプロデュースを考えているスゥも、頑張ってる二人が大好き。やっぱりあたし、先輩や学校よりも、友達のことが好きみたい。」

 照れくさそうに、ルリコは笑みをこぼした。

「あのさぁ、スゥ。聞いて欲しい話があるんだ」

 振り返ったルリコはさっきの作った笑顔とは裏腹に、何かを決心してすっきりしたような、そんな明るい顔をしていた。

「あたしと一緒に、四ツ星学園に来て欲しい」

 きっとそう誘われるんだろうな、思ったとおりだ。

「友達に影響されたからって、それだけの理由だと芯のない人みたいだけど、あたしが進もうと思える道が四ツ星にもあるのなら、決めてみるのも、まぁ悪くないかもしれない。ってね」

「それが、ルゥちゃんの答え?」

 私が問うと、ルリコは真っ直ぐ私の目を見つめ、力強く頷いた。それならば、私の答えはもう決まっている。

「なら私も行くよ、四ツ星学園。セルフプロデュースがメインでも、私がやることは変わらない。自分のこともプロデュースするし、ルゥちゃんのことも、もちろんトウカちゃんのこともプロデュースするよ。だって私、二人のプロデューサーだもん。ね?」

 ちょうど朝日が昇り、私たちを照らした。ルリコは私の言葉に頷き、昇ったばかりの朝日を見る。

「学校が変わっても、あたしの夢は変わらない。トップデザイナーになること」

「私は、プロデューサーになること。トウカちゃんとルゥちゃんが夢を叶えるためのプロデュースを成功させることが、私の夢だよ」

 ルリコとお互い笑顔になる。決意の朝日は眩しい。負けないくらい、私たちも輝けるアイドルになれるのかな。

 ルリコが大きく息を吸って、朝日に向かって叫んだ。

「あたし! 神林瑠璃子は! 学校が変わってもいつか! トップデザイナーになる!」

 普段はクールなルリコのレアな一面。心から叫んでいる姿もそうだけど、ここまで弾けた笑顔はなかなか見られない。決意は、ルリコと私の心を大きくさせた。

「ほら、スゥ。一緒に」

「え、いやいや、私は」

 叫ぶことなんて無いよ、と思ったけど、ルリコは構わずに私の腕を掴んで自分のとなりに立たせる。あぁ、もうあとに引けない。こんなときに叫ぶ言葉って言ったら、やっぱりあれかな。

「良いからほら、せーのっ!」

 

「「アイ、カーツ!!!」」

 

 

 ルリコはデザイナーを続け、モデルも出来るアイドルになる。

 私、ヒスイは、セルフプロデュースを新しく始め、他のアイドルのことも、自分のこともプロデュース出来る、そんなアイドルになる。

 進む道は違うけれど、それぞれの道で、例えるなら一番星みたいに輝きたいって、衝動的だけど、そう感じた。それでも、輝きたいって気持ちには素直で良いのかもしれない。

 私たちの熱いアイカツは、改めて熱く燃え上がる。

 

 新しい学校で、新しいアイカツ!始めます。

〈了〉

 

 

 自分の中では、登録している三人のマイキャラの他に、物語の中で生きるキャラクターが居ました。トウカの同級生の二人、それがルリコとヒスイです。

 これまでのDCDでは、さすがにマイキャラをこれ以上登録する余裕なんて無く、仮に登録したとしても、好みのパーツが手に入らず満足出来ないだろうと、思っていました。ですが、これから始まるスターズは、一から始める良いタイミングなわけです。

 まぁとは言っても、本当に登録するかは判らないんですけどね。それでも、スターズを楽しむ第一歩として、こうやって形にしてみました。次はルリコの一人称で何か書きたいな。

 

 では、今日はここらで一区切り。

 

 絹保